ニューヨーク洗濯事情(前半)

 

一番好きな家事は洗濯かもしれない。皿洗いもいいけれど、やっぱり洗濯だと思う。

 

コインランドリーは数えるほどしか使ったことがない日本の暮らしだった。 

日本では洗濯機をいつでも所有していた。狭くて安い一人暮らし用の部屋でも、洗濯機置き場がある物件を必ず選んでいた。洗濯を毎日何度もする家族で育った私は、洗濯機の無い家など考えられなかった。次第に、数日分洗濯物を溜めることにも慣れていったが、初めは不潔な気がして気持ち悪かった。

洗濯機を大雑把に設定し、洗剤と柔軟剤を服に合わせて選び、1時間ほど放っておく。洗濯物は外に干すのが好きだった。特に高円寺のアパートは低い甍と富士山と中央線が見えて、干すときの朝の澄んだ空も取り込むときの夕焼けも最高だった。

 

ニューヨークに引っ越して、今2軒目のアパートに住んでいるが、2軒とも部屋の中に洗濯機置き場はない。洗濯機が置けない部屋は多いそうだ。だから街のそこかしこにコインランドリーがある。1軒目は地下にランドリールームがあり、洗濯機3台と乾燥機3台が置かれてあった。どれかが大抵壊れているのも日常の風景だった。管理人さんが直してくれたら嬉しいけれど、日本のように全てが完璧じゃないところに、自分も許される気がしてホッとしていた。

 

今は物件のなかに洗濯設備がなく、歩いて5分ほどのコインランドリーまで行く。店名はクラッシク・ランドリー。近くて広いから通っている。設備が新しい店も近くにあるのだが、いかんせん狭い。今はコロナが怖いから、広くて密集しないに越したことはない。

クラシック・ランドリーは、入ると右側に洗剤が並ぶカウンターが見える。英語が通じない店員さんもいて、他の店員さんが通訳してくれたりする。店員さんと私の訛り英語が交わされる。目の前には3種類の大きさの洗濯機が何列にも並び、7分毎にチャージされる乾燥機が壁沿いにびっしり設えてある。壁のテレビではニュースが流れている。3台あるが大抵どれかが壊れている。ベンチに畳み台、店内用カート、巨大なゴミ箱。更にはマッサージチェアやクレーンゲーム機、ガムや飴、玩具のガシャポン、ジュースの自動販売機。10ドル札が出る便利なATM(ニューヨークでの現金支払いで高額紙幣は好まれない)。

この風景にも随分慣れ、緊張しなくなった。ハーレムに暮らす人の日常の時間が小一時間だけ留まるこの空間が好きだ。

 

(981文字/45分/9日目)

 

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クラシック・ランドリー。一番奥からの眺め。