リクエスト曲「Here Comes a Thoght」

いとうせいこうさんのTwitterを友人経由で見て、ああ、そうか、私には想像ラジオがあるじゃないか、と思ったのでリクエストを出すことにしたのでした。

 

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DJアークさん、こんにちは。(注)

ニューヨークに住んでいるナミです。

 

初めてお便りを出します。

今日は電波が良くて、よく聞こえるからです。

自分で聞こえたのは初めてかもしれません。

リクエストは先日1回出しました。

好きな曲、

Rebecca Sugar の Love Like You

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かけてくれてありがとう。

あの曲を聴くと、たくさんの友人の顔を思い出すんです。

もう死んじゃった人もいます。

たった数回しか会ったことのない人もいます。

そして、その人達が分けてくれた愛情を思い出して、

あったかい気持ちになるんです。

そして、何でもない自分がとても大切に思える、そんな曲だからです。

 

今日はこの曲をリクエストさせてください。

1回目のリクエストと同じアニメ「スティーブン・ユニバース」のなかで歌われる曲です。このアニメは時々ミュージカル仕立ての回があって、ラップ、R&B、ロックなどいろいろなジャンルの曲が出てきます。

登場人物のコニーが、意図せず友人に怪我をさせてしまい、どうしていいかわからなくなって混乱している時、ガーネットというキャラクターと一緒に自分を取り戻していく、自分を小さく絶え間なく生まれ変わらせていく、、、そんなシーンの中で歌われます。

昨日、ちょっとしんどかったので聞きたいなと思います。

そしてこのアニメはおすすめです。

 

Estelle と Aj Michalka で「Here Comes a Thought」です。

 

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(注)DJアーク

東日本大震災をテーマに、いとうせいこうによって書かれた『想像ラジオ』のなかの登場人物。いつだって誰だってどこでだって聞けるラジオ番組のDJ。

 

想像ラジオ (河出文庫)

想像ラジオ (河出文庫)

 

 

3月11日に思うことと、想像ラジオへのリクエスト

今日は3月11日。

どうしても、2011年3月11日と、それからのことを思い出さざるをえない。

この日だけがあの日を思い出すわけではないのだけれど、つらい記憶であることは確かなので普段は入らないスイッチを入れ、「よし」と決意させる力がこの日にはある。

あれから9年。早かった気がする。コペ転くらい人生も変わった。

多くを無くした人たちと出会った。

友達が増えた。

仕事をいくつか変えた。

住む場所も変えた。

共に住む人も何度か変わった。

再会もあった。

死別もあった。

多くの嘆きと怒りと悲しみと希望にであった。喜びもあった。

 

あの日があの日でなければ、出会わなかった人がいる。

親しくならなかった人達がいる。

 

気仙沼陸前高田、大船渡、仙台、松島、石巻、平泉、

南相馬、福島、双葉、いわき

 

こんなふうに思えるのは、無くしたものが少ないからだろう。

得るものばかりだったからだろう。

厚顔無恥に、今、思う。

 

だからこそ、知らないからこそ、分からないからこそ、

他者とその境遇を理解しようと、感じたい、そのように努めたい。

 

あの日のことを、今もありありと思い出せる。

仕事を辞していた私は、

ようやく起きてひとり杉並区の小さな軽鉄骨のアパートにいた。

まだスマートフォンも持っていなかった。

買ったばかりの全く部屋にそぐわない大型テレビを両手で抑えていた。

冷蔵庫の上に置いてあった卵がケースごと落ちた。

船酔いのように気分が悪くなった。

テレビの津波を見ていた。

 

後日、原発が爆発した。

私はもうじき死ぬんだと本気で思った。

ああもうこれは晩年なのだと。

大切な友人たちに電話をかけた。

できれば死なないで、生き延びてほしいと。

 

私の現実だった。

 

2020年の今、自分の恐怖はだいぶ和らいだ。

多くを経て、

住む土地を遠く、米国に移したことも大きいだろう。

物理的距離がもたらす心理的変化は大きい。

 

政治はあの日から積み重ねたものさえ捨てているように見える。

 

友人たちはますます優しく、賢く、私の目に映る。

 

自分でもうるせえよ、とも思うのだが、

友人たちは私の希望だ。

みぞおちあたりの奥にある光がここから見える。

この日の思考の終わりには、いつも同じことを思う。

あなたたちは、希望である。

あなた(たち)がいるから、人間を信じられる。

 

どうか、日々の暮らしを。

食べて、飲んで、寝て、排泄して。

遊んで。

人によっては労働して。

 

明日も無事に迎えられますように。

傷だらけでも。

 

 

 

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気仙沼安波山より。2014年8月4日撮影。

(追伸)

想像ラジオに初めてリクエストを出しました。

 

みんな、聞いてください。

アニメ、「スティーブン・ユニバース」のエンディングテーマ、

レベッカ・シュガーで

Love Like You 

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ビーガングラタンのレシピ(突然)

おうちで作ったビーガングラタンが美味しくて簡単だったのでレシピを共有します。

 

ほら、コロナとかでしんどいじゃないですか。日本は政府の対応も本当に悪くて、日常の買い物も棚がガラガラでままならない。イベントも中止ばかり。そういうときは気持ちがすごく圧迫される。おうちでできて、心も体もあったまるし、料理いいなと思って。

 

昔、2008年ですね、反G8運動で疲れた時に、海さんという人が YouTube にすごく素敵な動画を上げてて。それを思い出して書きました。その動画というのは、ストレスを軽減するために、自分で自分のために何ができるかっていうのを紹介した優しい動画なんだけど、その中に「りんごをまるごとかじる」っていうのがあって。りんごの食感とか、まるかじりすると固いからゆっくりしか食べられない感じとか、果物の自然な甘酸っぱさとかで、何も考えなくていい時間をりんごがくれる、というような内容でした。すごくハッとしたし、今もその動画を覚えてる。確か、たぶん、あぐらをかいて、画面の前でりんごをかじる海さん。

YouTubeそのものも黎明期だったんじゃないかな。

今でもたまに見たくて検索するんだけど、たどり着かない。

私の古い友だちたち、もし覚えがあったら動画共有してください。

 

さてビーガン・グラタンですが、

ホワイトソースも面倒かと思っていたら、すっごく簡単だったし、チーズを入れたりしなくてもコクもあって大満足でした。調味料も基本的に塩コショウのみです。調理時間は1時間か1時間半くらいかな。手際にもよるけど。

 

材料 4人前 (直径23センチ、深さ4センチの大きなオーブン皿いっぱいになる)

[ホワイトソース]

小麦粉 大さじ4

オリーブオイル 大さじ4

アーモンドとカシューナッツのミルク(豆乳とかでもOK)2カップと1/3

塩 少し

胡椒やビーガン顆粒だし 必要なら

マジックソルトとかガーリックソルトとか使ってもいい。だしがなくてもきのこを増やすと風味が出やすい)

 

 [ グラタンの中身]

*基本的にお好きなものを入れてください。にんにく、根菜と玉ねぎきのこ類の組み合わせであればなんでもいいと思う。分量は、グラタン皿と同じくらいの大きさのフライパンがいっぱいになるくらい作るとちょうどいい。

にんにく 

カリフラワー(ブロッコリー

にんじん

たまねぎ

マッシュルーム

ほうれん草

テンペ(なくてもOK)

オリーブオイル

塩、胡椒

パン粉(ない場合は、食パン1枚をミキサーにかけてつくる。私は全粒粉の食パンをトーストしてからミキサーにかけました。)

 

 

~作り方~

 [予熱]

オーブンを200度に熱する。

 

[ホワイトソース]

1.オリーブオイルを弱火から中火で熱する。熱くなったら弱火。

2.小麦粉をふるいにかけながら少しずつ1に入れ、木べらでかき混ぜる。なめらかなクリーム状になる。

3.ミルクをゆっくりと、木べらでかきまぜながら2に入れる。何度かにわけ、小麦粉のだまが残らないようにする。

4.塩や胡椒、ビーガンだしで味をお好みに整える。

5.火から鍋を下ろす

 

 [グラタンの中身]

6.にんにくをみじん切りする(スライスやさいの目でもOK)。

7.にんにく以外の材料をお好みでたべやすい大きさや、一口大に切る。

8.にんじん、カリフラワーに塩を軽くふって蒸す(電子レンジが楽)。

9.オリーブオイルを弱火にかけ、にんにくをゆっくりと香りが出るまで炒める。

10.玉ねぎを入れ、さらにゆっくり炒める。

11.葉物以外の材料を入れて、中火から強火で炒める。

12.葉物を入れて塩、胡椒を振り、中火から強火で炒める。

13.味をみて、お好みに整える。

 

[焼く]

14.グラタン皿に、グラタンの中身を入れる。

15.ホワイトソースをまんべんなく回しかける。ひたひた。

16.パン粉をかける。たっぷりがおすすめ。

17.オーブンに16を入れ、15~20分ほど焼く。途中でホワイトソースがぐつぐつ言います。そのあとにいい感じの焼色がつきます。

 

できあがり!!おいしく食べてください。

 

ストレスが多いときだからこそ、みんな、自分をケアしてあげてくださいね。

心や精神のダメージや疲れって自分では気づきにくいものだから。

 

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写真取る前に半分食べましたよね。ええ。

 

コロナウイルスがNYにも来た(薬局へ消毒液を買いに行った話)

中国武漢から始まったコロナウイルスの感染拡大(注)。今、多くの人の懸念をかっさらっているのはこれだろう。日本は、政府の対応の不味さによる人災がでかいのではないかと思うようなニュースばかり。ニューヨークから見てても腹立たしい。

 

消毒液やマスクの高騰は、米騒動の契機を思わせる。

在ニューヨーク日本総領事館からも、コロナウイルスに関する注意メールが何通かきている。

 

日課のジムからの帰り道、防塵マスクをしている人がひとり。おお、おおげさだなとふと思う。

家に帰ってニュースを見ると、マンハッタンでもついに陽性反応の患者さんが見つかった(マンハッタン勤務の男性)という。ニューヨーク市の対応は早く、ニューヨーク州知事とニューヨーク市長が並んで記者会見をした。ランダムに上がる記者たちの質問に答えていく、まっとうな記者会見に安堵を覚える。そんなポイントで安堵しても仕方ないのだが、日本の現安倍政権議員たちとはえらい違いだ。

私はそのニュースを記者会見の翌朝、インターネット配信で見た。

ざっと心の中が青ざめ、不安がせり上がってくる。昨晩、義父と電話してコロナウイルスの話になった時「パニックになる必要は無いが、賢くありたい」と言っていたのを思い出す。

すぐに、WHOのウェブサイトを確認し、予防の仕方を復習し、パートナーと共有する。手洗い、消毒の方法。咳やくしゃみの仕方、公共の場での対応など。

パートナーと、トイレットペーパー、ティッシュ、マスク、ハンドソープ、消毒液のストックを確認。先月、大量にアマゾンから届いたトイレットペーパーに「収納あるからってそんなに一気に買うか~」と心のなかでツッコんだことを思い出し、安心する。日本では収納が豊富でないアパート住まいだったので、買い置きする習慣がなかった。とは言え、どれもそんなに大量にあるわけではない。普通のストックだ。

マスク一箱。ボックスティッシュ2箱。消毒液はダイニングテーブルの使いかけが1つと、いつも持ち歩いている使いかけのトラベルサイズがパートナーと私にそれぞれ1つずつ。

ちょうど前日、日本の両親からストックを買っておいたほうが良いかもしれないというメールを受け取ったばかりで、心がざわついていた。親から受けたトラウマで、親の予想を超えて叩いてもほころびがでないように、完璧に準備しておかなければならない、なにかを指摘されても「やってあります」「準備は完璧です」と言えるようにしておかなければならないと、脳みそが未だに勝手に反応する。

物資の買いだめは良くないが、親に言われるとストックを増やしたほうが良い気が、必要以上にしてしまう。

 

まずはアマゾンでチェック。消毒液、トイレットペーパー、ティッシュ、マスク、いずれも在庫が無かった。

その日は近所の薬局に処方薬を取りに行く用事があったので、ついでに消毒液があれば少し買い足しておこうという話になった。ペーパー類は今あるだけで大丈夫だろう、と。

 

薬局に行き、パートナーが処方薬を受け取っている間、消毒液を探す。消毒液の棚に行く途中で、トイレットペーパーの棚を通る。在庫が少なかったが、まだある。私の近所の薬局はどれもいろんなものの在庫が切れがち、または棚がスカスカだったりすることは日常茶飯事なので、「コロナウイルスの影響かは分からないよね」と不安をなだめるように心の中でつぶやいた。

そして、「英語表記を読むの早くなったな」と自分自身を褒めながら、消毒液とハンドソープの棚にたどり着く。 消毒液はその一切が無く、ハンドソープは高価なブランドのものを中心にまばらに陳列棚に残っていた。蛍光カラーにビビらされる庶民的な価格のものは一切残ってなかった。棚を見ていると、マスクをしたアジア系の見た目の男女が棚にやってきた。私の知らない言葉で必死にハンドソープを選んでいる。本当は消毒液も欲しかったのかもしれない。

トラベルサイズのシャンプーや歯磨き粉が売っている棚も一応見る。消毒液は無かった。

 

処方薬を受け取ったパートナーと合流し、消毒液が無かったことを報告する。手元に何もないわけではないからと確認し合って店を出た。

帰り道には、もう一軒薬局がある。私はその薬局に寄ろうかと提案した。パートナーは、きっと在庫は無いよと言う。その通りだと思う。それでも私は、

「あの薬局にも寄って、在庫が無いのを確認して、自分でやれることはやったと納得したい」

とパートナーに提案した。

やれることは全部試す、これはいつも私が他のことでもやっている問題解決方法だが、私はこの時、不安にかられていた。

ふと、義父の「賢くありたい」という言葉が脳裏をよぎる。

決意をする。

「やっぱり、薬局には寄らないで帰ろう。もし、在庫があっても、私たちよりもっと必要としている人たちが買えるように」

決意はしても不安ではある。

パートナーと路上でハグをし、私達は人生において、資本主義や政府に振り回されず、より良い人間になっていきたい、ヒューマニティーでもって優しく生きたい、という目標を確認し合った。

確認しても不安ではある。

不安ではあるが、在庫はいつか入るだろう。

物資は必要な人に届いてほしい。医療機関や高齢者施設、子どもの施設などを優先して。

 

日本に思いを馳せる。ツイッターで流れてくるがらんどうのスーパーや薬局の棚。薬局店員さんの悲痛な叫び。胸が熱く、ぎゅっと絞られるように痛くなる。

日本にいたら、どう動くかは大体決まっている。コミュニティやネットワーク、培ったものがあるからだ。遠く離れて、今、どうやって、友人たちのために何ができるのだろう、と思う。

 

その日は、不安で、不安で。近々、地下鉄に乗る用事のあった私は、マスクをするべきか否かで無意識にストレスをためてしまった。

 

翌日、近所の生活雑貨屋に大量の除菌ウェットティッシュや消毒液が入荷しているのを見た。

翌々日、在庫はまだ店頭に山程残っている。

街は落ち着いている。

 考え、判じ、賢くなりたい。

 

追記。

在ニューヨーク日本総領事館からの2020年3月3日付のニュースレターによれば、

現在、患者の男性は市内の病院で治療中。重症。

(記者会見によれば彼は公共の交通機関を使っていないそう)

彼の親族(子ども)が通っていた学校を含め、4つの学校を予防措置として閉鎖。

州等による予防措置やホットラインを含め、情報収集は、以下のページ。

 

CDChttps://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/about/prevention-treatment.html
ニューヨーク州https://www.health.ny.gov/diseases/communicable/coronavirus/
 ホットライン:1-888-364-3065
・NY市:https://portal.311.nyc.gov/article/?kanumber=KA-03288
ニュージャージー州https://www.nj.gov/health/cd/topics/ncov.shtml
 ホットライン:1-800-222-1222
ペンシルベニア州https://www.health.pa.gov/topics/disease/Pages/Coronavirus.aspx
 ホットライン:1-877-PA-HEALTH
デラウエア州https://dhss.delaware.gov/dhss/dph/epi/2019novelcoronavirus.html
 ホットライン:1-888-295-5156
・ウエスバージニア州https://dhhr.wv.gov/Coronavirus%20Disease-COVID-19/Pages/default.aspx
コネティカット州https://portal.ct.gov/DPH/Public-Health-Preparedness/Main-Page/2019-Novel-Coronavirus

 

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春も近いのですが。

 

 (注)2020年3月11日追記。医者を務める友人に聞いた所、医学的に言うと、武漢が始まりかどうかも断じることができないそうです。

 

 

村上春樹『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』

36歳にして、初めて村上春樹を読了しました。

二十歳の時、『ノルウェイの森』を手に取り、なんだか、スカした空気感が嫌で、1ページ読んだか読まないかで読むのをやめて、そこからなんとなく苦手意識があって、一度も手に取ることがなかった。

 

読んだのは、これ。

『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』

 

たまたま、パートナーの本棚にあったからこれにした。読んだことないのに、直感で村上春樹作品を嫌いなままってもったいないことかもしれないと、わざわざ理由づけした。そこまで心を引かれていないということだ。小説や文芸作品において、同じ作者の著作を偏向的に読む傾向にある私は、新しい著者に挑むのはちょっと勇気がいることだったから。学術書やルポなどはそうでもないのだけど。

 

主人公は名古屋の出身の男で、高校時代までをこそで過ごす。明確な意思を持って、受験勉強をがんばって東京の大学に進学する。36歳、東京で希望通りの仕事をし、生きている。そんな主人公の、高校生時代、大学時代に経験した喪失を中心に物語が展開していく。

名古屋出身、36歳、作る仕事、大学進学で状況、そのまま東京ぐらし、若い頃の喪失体験の棘が心から抜けていない、、、なんとなく自分と共通点が多いように思えて、読み進められた。

 

文章中の、女性の登場人物の見た目の描写が、男性の登場人物と比べて多く、美醜の観点がそこにあって、それだけはとても嫌な感じだった。まあ、でも、一般的な日本人の男性を描くとそうなるのかな。だとしても嫌なのだけど。

 

物語の終盤、とても穏やかな涙が何度か、そしてそのいずれも何筋か出た。悲しかったのだと思う。初めての種類の感動だった。初めてのことをすると、出会ったことの無い自分や自分の感情や感覚と出会うことがあってとてもおもしろい。生きてるうちにたくさんの初めてと出会いたいなと思う。

 

ジェンダー的に嫌な気持ちになることはあったけれど、それ以外は、様々な感情や、感覚や、記憶やを揺さぶってくれて、良い作品だった、と思う。

 

詩的、分かりやすさ、文章の読みやすさ、現実に無さそうで無い(憧れはあるかも)主人公たちの会話の質。選ばれる音楽やお酒、服などの描写から醸し出される都会的な雰囲気。長い浜の浅瀬の海みたいなざわつきと清涼感と不安定と安定。こんなところから世界中から愛されるのかなあと思った。一作しか読んでないけど。

 

たぶん、私が村上作品を苦手なのは、日本の男性向けライフスタイル雑誌を読むのと同じような、日本っぽい独特のマスキュリニティを感じるからだと思う。「なんでもありませんよ。僕はこういうふうに生まれてきたんです。無理なんてしてなくて、これが僕の自然体なんです」というような感じを装って(あくまで装う)都会的でどことなくノーブルな雰囲気を醸し出す感じ。所有物や身に付けるもののさりげない高価さをさらりと挟むあの感じ。でも、その人そのものがあまり芯を食って伝わってこない感じ。

 

むしろ、男性雑誌が村上作品の雰囲気を取り入れてるのかなあ。

 

あとは、この作品の感想というよりも、そこから想起されたことをちょっと書いてみたい。

 

私も主人公が経験したように友人から突然拒否された経験が何度かある。

夏休み明けたら、呼び方があだ名から、名字にさんづけになっていて、一切話さなくなった人。

私の綴った長文エッセイに傷ついたとのことで、友人経由で「今後、話しかけないでほしい」と言ってきた人たち。

 

私の心にも今も棘が刺さっているのだ。その棘は、何年もかけてだいぶ小さく溶けたけれど、今も最後の少しの部分がまだそこに刺さっている。これが体のだいぶ中心にあるのだから厄介だし、ある種の核心部分なのだと思う。

人間にはこういう棘がいつくも刺さっているんだろうなと思う。そして、私も他者にこういう棘を刺したのだと思う。

 

昔に刺さった棘を溶かす作業(こういうのは、決して抜けないのだ。溶けていく、溶けてなくなっていくというほうが実感的に近い)は、できるだけするようにしている。いくつか方法がある。

ひとつは、時間がどれだけたっていようと、対話したり、謝ったりする。繋がりが途絶えていたところから、連絡を取り直して会いに行ったり、SNSで再会したりすることもある。当時は何もできなかった、わからなかった、精一杯だったということが結構ある。今だったら、自分なりに紐解けている感情もある。これが大きな再会になることもある。

ふたつめは、カウンセリングや自助グループに行ったり、認知行動療法的に自己分析したり、具体的に自分の棘が何なのか向き合う。痛みも大きいし疲れるが、長い目で見て同じ棘が刺さらない自分になる。そして、他人にも刺さない。

みっつめは、大好きな人達と愛の時間を過ごすこと。今を愛でめいっぱい生きること。棘とまったく直接対決しないのだが、不思議と棘は小さくなる。

 

私にとってダンスやパフォーマンスアートの作品創作は、テーマによっては自分でこの棘を無理やり抜いて取り出してみようとする行為でもある、ということが2019年に明確に分かった。それは、キツイよね。麻酔なしで開腹手術をするのだから。ここ数年取り組んでいた「私もフリーダです」は本当にそういう取り組みだった。表には出ていないけれど、もうひとつの未完のデュエット作品もそういうものだった。

 

棘が刺さることがあっても、他者と一緒に生きていきたいと思う。

他者の物語が、その人を中心に展開され、

私の物語が、私を中心に展開されて、

人生の時間がクロスしたり、離れたり、平行したり、

もう二度とクロスしなかったりする。

 

 

バラバラとまとめるとでもなく書いたけれど、

村上春樹、次は、英語版で読みたい。

英語のほうが良いと他者から聞いたから。

 

桐野夏生『柔らかな頬』

ニューヨークで、バリバリと本を本を読んでいます。英語の本は、楽しいけれどまだまだ勉強って感じなので、日本語の本を息抜きにしています。

 

先週は、図書館から借りてから3日ほどで、

桐野夏生『柔らかな頬』

 

柔らかな頬

柔らかな頬

 

 

を読みました。桐野夏生は、よく読む。本当に人間の人間たる心理的な恐ろしさを、あまりにもいきいきと、そしてありありと描写するので、いつもハラハラしながら、何より胸糞悪いな〜と思いつつ読みます。

 


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なんと、サイン本で驚き。きれいな字。コロンビア大学図書館への寄贈主は東京都になってる。いろんな仕事があるものだ。

 

これを借りた時は、息抜きのために本が読みたいと思い、選んだのが『コレクション 戦争と文学5 イマジネーションの戦争』、『飾らず、偽らず、欺かず:菅野須賀子と伊藤野枝』と、桐野夏生の3冊だったので、息抜きになるかどうかパートナーに心配されました。確かに自分でも暗いセレクションだとと思って心配したから、桐野夏生は推理モノ、「コレクション戦争と文学」は、SFモノを集めた号にしたんだよ。でもやっぱり暗かった。

今、読みたい!今、興味のある!というのは本当に、心も頭も蘇る。読むエネルギーも大きい。

 

 

飾らず、偽らず、欺かず――管野須賀子と伊藤野枝

飾らず、偽らず、欺かず――管野須賀子と伊藤野枝

  • 作者:田中 伸尚
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/10/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

さてさて、『柔らかな頬』ですが。

以前、テレビドラマになっているようですが、ドラマとは結末が違うそうです。(あさ〜くググりました。ググった先でも「結末が許せません!」という地獄がめっちゃあったので検索をやめました。許せないって凄いな〜。分からないとか共感できないじゃなくて許せないって・・・匿名のサイトとは言え、激し過ぎる。)

 

斜陽の組版会社夫婦とその子ども、取引先の大手広告代理店の夫婦、胃癌に犯され死期が迫った元刑事を中心に話が展開していきます。夏休みのバケーション中に、組版会社夫婦の長女が突然姿を消したことから始まる推理プラス人間ドラマです。

本当に分厚くかつ二段組の本なのですが、描写の細やかさが、登場人物の空気を伝え、その文章量の多さを感じさせません。

特にお気に入りなのは、後半によく登場する夢の描写。夢、夜見る夢ですね。

 

寝ている時に夢を見ると、自分が誰か以外になっていることに違和感を抱きつつも夢が展開する中で疑問自体を忘れて他者を生きたり、あまりにも現実っぽいことが起きたりして、目覚めてから驚いたり、疲れたり、気分が悪くなったり、幸せな気分になったりすることがあると思うのですが、そういった類の夢の感覚が呼び起こされるような描写が断続的に続くのです。

この挿入と表現が本当に面白かった。

あまりに見事に挿入されるので、あれ、これ、本筋だっけ?と思う感覚が、夢を見ながらに「あれこれ夢?それとも現実?」と思う、あの感覚にそっくりなのです。

いつの間にか他者にかすり替わっていく、夢を見ている本人の意識、物語の本筋(物語の中の現実)に起きてもおかしくなさそうな、主人公たちの行動、発言、、、。

 

夢は、日頃起きている時に体験することや、感じていること、考えていることに影響されるといいます。登場人物たちの考えていることや行動は、読者として読んで知っているわけで、かつ自分でも読者として、誰が長女誘拐の犯人なのだろうと予想したり考えたりしながら読んでいるので、自分の想像が、夢の描写と混ざり合って、「あれ?こんな展開?」「まさかこの人が犯人?」となる。そして現実(物語の本筋)に引き戻される。こうなると、もはや、夢の描写だったのかどうか分からなくなってくる。リアルな夢を見た時と同じような感覚に陥るのだ。

これを文章で感じたことは初めてで、初めは、何を見ていて感じているのかも、混乱するほどだった。読書体験で、初めてのことに出会うのは本当に痛快だ。

 

読んでる途中も読了感も、本当に、救いが無いんだけど、痛快な読書体験でした。

「刺す」いろいろ(英語の話)

先週、インフルエンザの予防接種と採血をしてきたのですが、その前日に見ていたネイチャードキュメンタリーにヤマアラシが出てきて、ライオンをあの背中の針でめっちゃ刺してました。ライオン、撃退されてた。ヤマアラシ、強い。「刺す」って言ってもいろいろある英語を勉強して面白かったので共有します。以下紹介する英語は、全部動詞です。

 

stab

ナイフなどの鋭利な物で刺す。殺傷事件とかはこれですね。

 

sting

蜂とかアリとかの小さな虫に刺されちゃうのはこれ。

 

stick

針とか画鋲、ピンで刺す。

stick into

何かを刺す、のだけれど、stabにあるような暴力性は無くなる。料理をしていて温度計をケーキに刺したりする時とかに使う。

 

pin

昆虫の標本を作る時はこれ。刺して(壁などに)つける。

 

poke

これが一番かわいらしい雰囲気(私比)。小さな針などで突くイメージ。皮膚の下まで入らないような。

 

inject

刺してさらに液体を注入する。って書くと怖いな。エイリアン感ある。まあ、注射です。ちなみに、注射そのものはinjection。インフルエンザの予防接種は、flue shot。「インフルエンザの予防接種をしてもらえますか?」は

Can I get a flue shot?

です。動詞はgetですね。「インフルエンザの予防接種したよ〜」は

I got a flue shot.

です。

 

話がズレました。

 

 

puncture

一番、オフィシャルというか、科学的な表現。タイヤがパンクした時もこれ。

 

ちなみに、蚊が刺すは、

bite(噛む、噛みつく、かじる)

です。

関西の方言と同じですね。

 

ちなみにこれ、アメリカ英語なので、イギリス英語、イギリス系の英語圏では違うかもです。

 

あと、ヤマアラシは、porcupine(ポーキュパイン)です。かわいい。

 

2018年から2019年にかけて、下北沢の気流舎で「ノンネイティブ英語講座」なるものを友達と協力して開いていました。それはそれはもう、素晴らしい体験でした。

 

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気流舎。愛してる。本、チャイ、ビール、ワイン、アブサン、音楽、イベント、諸々揃ってます。

リンクです。

 

www.kiryuusha.com

 

私自身、今、ニューヨークで暮らしていますが、生まれ育った家族や環境は、全く外国(日本から見た外国)に縁はありませんでした。高校時代に、1年間ニュージーランドに留学し、そこで日常生活に困らないレベルの英語を話せるようになりました。大学院に進学した時、こんなにも帰国子女やバイリンガルっているんだって驚きました。生まれ落ちた所の差は大きい。

語学は、ネイティブとまではいきませんが、感覚で言語を掴んでパパパッと伸びる人もいれば、感覚が掴めずに伸び悩む人もいます。私は後者でした。「留学先では机に向かって勉強するな、ホストファミリーとおしゃべりしてたら良い」というアドバイスも受けましたし、それは本当にそうだなと思います。でも、私は伸び悩んで、ほんで悩んで、結果めっちゃ机に向かって勉強しました。

だから、なんとなく、英語の日本語話者がどこでつまづくか、なんとなく分かる気がする。だから、どうやって一人で勉強すれば英語に対する感覚を掴んで話せるようになるか、分かる。そんな経験を応用させての、英語講座でした。

月1回、合計10回行った講座でしたが、全回参加した人は、英語に対する感覚が育っていて、すごく早く講座内の課題をこなせるようになっていた。もちろん、講座以外に本人が努力したのもある。でも、力になれて嬉しかった。そう、まあこれは東京の思い出話です。

 

今日は、「刺す」の話をしたけれど、面白がって言葉を学べたら、本当に良いなと思う。

 

本当に、英語じゃなくても良くて、日本語でも、スペイン語でも、中国語でも、韓国語でも、エスペラント語でも。言葉は、世界を広げてくれるとっても便利な道具だから。