コロナウイルスがNYにも来た(薬局へ消毒液を買いに行った話)

中国武漢から始まったコロナウイルスの感染拡大(注)。今、多くの人の懸念をかっさらっているのはこれだろう。日本は、政府の対応の不味さによる人災がでかいのではないかと思うようなニュースばかり。ニューヨークから見てても腹立たしい。

 

消毒液やマスクの高騰は、米騒動の契機を思わせる。

在ニューヨーク日本総領事館からも、コロナウイルスに関する注意メールが何通かきている。

 

日課のジムからの帰り道、防塵マスクをしている人がひとり。おお、おおげさだなとふと思う。

家に帰ってニュースを見ると、マンハッタンでもついに陽性反応の患者さんが見つかった(マンハッタン勤務の男性)という。ニューヨーク市の対応は早く、ニューヨーク州知事とニューヨーク市長が並んで記者会見をした。ランダムに上がる記者たちの質問に答えていく、まっとうな記者会見に安堵を覚える。そんなポイントで安堵しても仕方ないのだが、日本の現安倍政権議員たちとはえらい違いだ。

私はそのニュースを記者会見の翌朝、インターネット配信で見た。

ざっと心の中が青ざめ、不安がせり上がってくる。昨晩、義父と電話してコロナウイルスの話になった時「パニックになる必要は無いが、賢くありたい」と言っていたのを思い出す。

すぐに、WHOのウェブサイトを確認し、予防の仕方を復習し、パートナーと共有する。手洗い、消毒の方法。咳やくしゃみの仕方、公共の場での対応など。

パートナーと、トイレットペーパー、ティッシュ、マスク、ハンドソープ、消毒液のストックを確認。先月、大量にアマゾンから届いたトイレットペーパーに「収納あるからってそんなに一気に買うか~」と心のなかでツッコんだことを思い出し、安心する。日本では収納が豊富でないアパート住まいだったので、買い置きする習慣がなかった。とは言え、どれもそんなに大量にあるわけではない。普通のストックだ。

マスク一箱。ボックスティッシュ2箱。消毒液はダイニングテーブルの使いかけが1つと、いつも持ち歩いている使いかけのトラベルサイズがパートナーと私にそれぞれ1つずつ。

ちょうど前日、日本の両親からストックを買っておいたほうが良いかもしれないというメールを受け取ったばかりで、心がざわついていた。親から受けたトラウマで、親の予想を超えて叩いてもほころびがでないように、完璧に準備しておかなければならない、なにかを指摘されても「やってあります」「準備は完璧です」と言えるようにしておかなければならないと、脳みそが未だに勝手に反応する。

物資の買いだめは良くないが、親に言われるとストックを増やしたほうが良い気が、必要以上にしてしまう。

 

まずはアマゾンでチェック。消毒液、トイレットペーパー、ティッシュ、マスク、いずれも在庫が無かった。

その日は近所の薬局に処方薬を取りに行く用事があったので、ついでに消毒液があれば少し買い足しておこうという話になった。ペーパー類は今あるだけで大丈夫だろう、と。

 

薬局に行き、パートナーが処方薬を受け取っている間、消毒液を探す。消毒液の棚に行く途中で、トイレットペーパーの棚を通る。在庫が少なかったが、まだある。私の近所の薬局はどれもいろんなものの在庫が切れがち、または棚がスカスカだったりすることは日常茶飯事なので、「コロナウイルスの影響かは分からないよね」と不安をなだめるように心の中でつぶやいた。

そして、「英語表記を読むの早くなったな」と自分自身を褒めながら、消毒液とハンドソープの棚にたどり着く。 消毒液はその一切が無く、ハンドソープは高価なブランドのものを中心にまばらに陳列棚に残っていた。蛍光カラーにビビらされる庶民的な価格のものは一切残ってなかった。棚を見ていると、マスクをしたアジア系の見た目の男女が棚にやってきた。私の知らない言葉で必死にハンドソープを選んでいる。本当は消毒液も欲しかったのかもしれない。

トラベルサイズのシャンプーや歯磨き粉が売っている棚も一応見る。消毒液は無かった。

 

処方薬を受け取ったパートナーと合流し、消毒液が無かったことを報告する。手元に何もないわけではないからと確認し合って店を出た。

帰り道には、もう一軒薬局がある。私はその薬局に寄ろうかと提案した。パートナーは、きっと在庫は無いよと言う。その通りだと思う。それでも私は、

「あの薬局にも寄って、在庫が無いのを確認して、自分でやれることはやったと納得したい」

とパートナーに提案した。

やれることは全部試す、これはいつも私が他のことでもやっている問題解決方法だが、私はこの時、不安にかられていた。

ふと、義父の「賢くありたい」という言葉が脳裏をよぎる。

決意をする。

「やっぱり、薬局には寄らないで帰ろう。もし、在庫があっても、私たちよりもっと必要としている人たちが買えるように」

決意はしても不安ではある。

パートナーと路上でハグをし、私達は人生において、資本主義や政府に振り回されず、より良い人間になっていきたい、ヒューマニティーでもって優しく生きたい、という目標を確認し合った。

確認しても不安ではある。

不安ではあるが、在庫はいつか入るだろう。

物資は必要な人に届いてほしい。医療機関や高齢者施設、子どもの施設などを優先して。

 

日本に思いを馳せる。ツイッターで流れてくるがらんどうのスーパーや薬局の棚。薬局店員さんの悲痛な叫び。胸が熱く、ぎゅっと絞られるように痛くなる。

日本にいたら、どう動くかは大体決まっている。コミュニティやネットワーク、培ったものがあるからだ。遠く離れて、今、どうやって、友人たちのために何ができるのだろう、と思う。

 

その日は、不安で、不安で。近々、地下鉄に乗る用事のあった私は、マスクをするべきか否かで無意識にストレスをためてしまった。

 

翌日、近所の生活雑貨屋に大量の除菌ウェットティッシュや消毒液が入荷しているのを見た。

翌々日、在庫はまだ店頭に山程残っている。

街は落ち着いている。

 考え、判じ、賢くなりたい。

 

追記。

在ニューヨーク日本総領事館からの2020年3月3日付のニュースレターによれば、

現在、患者の男性は市内の病院で治療中。重症。

(記者会見によれば彼は公共の交通機関を使っていないそう)

彼の親族(子ども)が通っていた学校を含め、4つの学校を予防措置として閉鎖。

州等による予防措置やホットラインを含め、情報収集は、以下のページ。

 

CDChttps://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/about/prevention-treatment.html
ニューヨーク州https://www.health.ny.gov/diseases/communicable/coronavirus/
 ホットライン:1-888-364-3065
・NY市:https://portal.311.nyc.gov/article/?kanumber=KA-03288
ニュージャージー州https://www.nj.gov/health/cd/topics/ncov.shtml
 ホットライン:1-800-222-1222
ペンシルベニア州https://www.health.pa.gov/topics/disease/Pages/Coronavirus.aspx
 ホットライン:1-877-PA-HEALTH
デラウエア州https://dhss.delaware.gov/dhss/dph/epi/2019novelcoronavirus.html
 ホットライン:1-888-295-5156
・ウエスバージニア州https://dhhr.wv.gov/Coronavirus%20Disease-COVID-19/Pages/default.aspx
コネティカット州https://portal.ct.gov/DPH/Public-Health-Preparedness/Main-Page/2019-Novel-Coronavirus

 

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春も近いのですが。

 

 (注)2020年3月11日追記。医者を務める友人に聞いた所、医学的に言うと、武漢が始まりかどうかも断じることができないそうです。